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札幌高等裁判所函館支部 昭和30年(ラ)4号 決定

被告人 旭佳明

主文

原決定はこれを取消す。

理由

本件抗告の要旨は、「抗告人は、相手方から抗告人にあてた別紙目録記載の約束手形二通の振出をうけたが、昭和二六年一〇月六日右手形二通とも拒絶証書作成の義務を免除したうえ株式会社北海道拓殖銀行に対して裏書譲渡した。同銀行は、各満期に支払場所で右手形を呈示してその支払を求めたところ、いずれも拒絶された。抗告人は、さらに昭和二七年一月一〇日同銀行から右手形の戻裏書をうけたので、相手方に対して右手形金合計三五万円および内金二〇万円に対する満期の翌日たる昭和二六年一月一六日から、内金一五万円に対する同様昭和二六年一二月三一日から各完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金債権のあることを原因とし、右債権中遅延損害金債務の義務履行地は、函館地方裁判所の土地管轄に属するものと解して、右各請求を併合し、同裁判所に対して該各金員の支払を求める旨の訴を提起したところ、相手方は管轄違の抗弁を提出し、本件訴を、その管轄裁判所たる盛岡地方裁判所に移送されたい旨申立てた。函館地方裁判所は、右遅延損害金は、各手形金の請求に附帯して為された請求であつて、主たる請求について管轄権を有せず、その訴訟の附帯の目的たる請求についてのみ管轄権を有するに過ぎない裁判所に対しては、右従たる請求に主たる請求を併合して訴を提起することは、被告の管轄の利益を奪うものであつて、これを許すべきではないとして、本件訴を相手方の住所地で、かつ手形の支払地である岩手県気仙郡大船渡町の管轄裁判所たる盛岡地方裁判所に移送する旨決定した。しかし、右決定は、民事訴訟法第二一条の解釈を誤つたものであつて、失当であるからその取消を求めるため本抗告におよんだ。」というにある。

思うに、民事訴訟法第二一条が、併合訴訟の特別裁判権を認めたのは、いうまでもなく被告において、一つの請求について当該裁判所に管轄権がある以上その請求については同裁判所で応訴せざるを得ないので、原告が、同一被告に対して数個の請求を為す場合にその一つの請求について管轄権を有するならば、他の請求は併合によつてその裁判所に土地管轄を認めても、あえて被告に不利益を被らしめないとの考慮に基くものであつて、その裁判所が、数個の請求中訴訟の附帯の目的たる請求についてのみ管轄権を有するに過ぎない場合であつてもそれは、もともと独立の管轄権を有するわけであるから、これと併合要件を充たすかぎり該裁判所に他の主たる請求について土地管轄を認めても、あえて被告の管轄の利益を奪うとは考えられない。したがつて従たる請求に主たる請求を併合して訴を提起することはもとより適法であつて、単に主たる請求について元来管轄権がないという理由だけで同条の適用がないと解すべきではない。もつとも手形金の債務不履行に因る遅延損害金はその発生が、手形債務の存在を前提とする関係から、手形債務に従属し、その義務履行地は、右手形債務の支払地と同一と解すべきか、または満期後の手形といえども裏書によつてのみ完全にその権利を譲渡され得ることからみて、すくなくとも商法第五一六条第二項にいう指図債権の観念に含まれると解すべきか多少の疑問もないではないが、本来遅延損害金は手形法第四八条第一項第二号所定の法定利息とは性質を異にし、純然たる損害賠償債務であつて手形行為に基因するものではないから、手形金債務とは必ずしもその運命を共にせず、その譲渡も民法所定の指名債権の譲渡の方法によるべきものと考えざるを得ないので、その義務履行地は、手形の支払地と同一と解すべきでないことはもとより商法第五一六条第二項の適用もないというべきである。したがつて、手形金債務の不履行に因る遅延損害金は、持参債務と解する。

しかして、本件請求の遅延損害金の債権者たる抗告人の住所が、北海道松前郡松前町であることは記録に徴して明らかであるから、その請求の裁判籍は函館地方裁判所に存するものというべく、したがつて、手形の支払地および被告の住所地が元来同庁の管轄に属しないとしても手形金の請求は併合して訴求し得べきである。原審が、同庁に管轄権がないとして盛岡地方裁判所に移送する旨の決定を為したことは失当であるから、民事訴訟法第四一四条第三八六条によりこれを取り消すべきものとし、主文のとおり決定した。

(裁判長判事 西田賢次郎 判事 山崎益男 判事 水野正男)

(別紙)目録

一、振出人臼井春助、受取人旭佳明、振出日、昭和二六年九月一七日、金額二〇万円、満期同年一一月一五日、振出地岩手県気仙郡広田村、支払地同県同郡大船渡町、支払場所岩手県殖産銀行大船支店

二、振出日昭和二六年一〇月二日、金額一五万円、満期同年一二月三〇日、その他前同様

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